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「彩雲国物語」:ライトノベルは男女平等の夢を見るか? [小説]

 ライトノベルという分野があります。古くはジュブナイル小説とも呼ばれたこの分野、主な読者層を中高生に設定し、改行が多いとか文体が口語調に近いなどの小説としては緩めの縛りの中で、学園物・ミステリ・アクションファンタジーSFなどの多彩なジャンルに渡って展開される小説レーベル群です(参照:wikipedia)。
 ちなみに「主な読者層を中高生に」のくだりは、「当初はそのような目標を掲げ」あるいは「建前として」くらいに読み替えていただいても構いません。

 ともあれ私はそういった小説群も時々読むのですが、最近はこの「彩雲国物語」というシリーズに手を出しました。そうして読み進めるうちに、どうしても気になったことがあるので書いてみようと思った次第です。テーマはタイトルどおり「ライトノベルは男女平等の夢を見るか?」。
 ・・・ちなみにフェミニズム(ジェンダー論)は社会学の一部門でありますが、なかなかに微妙な分野で攻撃的にもなりやすければ反発も多いので、私の「男女平等」に対する考え方を最初に書いておきます。

 私は男女平等とは部分概念だと思っています。つまりある分野に関しては男女平等という考え方(定義)も存在しうるし、現在の人類状況としてはその方向性を目指すことが求められているかもしれない。しかし総合的に、つまり全社会的にあるいは全世界的に全状況的に「男女平等」というものは、そもそも概念として成立しえないし、したがって存在することもあり得ない、という考えです。
 というわけで、ここでいう「男女平等」もとある分野に限った男女平等ということになります。その分野とは家庭外労働、家庭の外で賃金あるいはそれに代わる対価を得るための労働という分野です。簡単に言えば「職業」あるいは「仕事」ですね。


 「彩雲国物語」の話に入る前に、前提として二つのライトノベルを挙げたいと思います。森岡浩之「星界の紋章」と小野不由美「十二国記」です。前者はSF、後者は中華風ファンタジーと、それぞれ架空の世界を舞台としたジュブナイル小説ですが、それぞれの世界では家庭外労働の分野において完全なる男女平等が実現しています。
 つまり職場における男女比率はほぼ半々であり、社会構成員のほぼ全員がそれが当たり前だと思っているし、社会システム上もなんの無理もなくごく自然にそれ(男女平等)が達成されている社会なのです。
 なぜか? 簡単に言えば、「星界」と「十二国記」二つの世界では、女性はというか人類は、妊娠出産を自らの体で行わなくて済むからです。

 「星界」では人工子宮の技術が完成していますし、それどころか主人公であるアーヴ種族は受精卵にすらこだわっておらず、遺伝子操作によって子孫を作り出します。よって単体生殖も可能です。
 「十二国記」の世界では、夫婦が子供が欲しいという願いを込めて里木という特別な木に紐を結びつけ、その願いが天帝(神)に届けば紐を結んだ枝に実が成るというシステムです。その果実の中に子供(赤ん坊)が入っています。
 なので十二国記の世界には結婚という概念および社会システムは存在しますが、星界のアーヴ種族には結婚という概念すら存在しません。「男親」か「女親」のどちらかがいるだけです。だた恋愛の概念はありますし、その結果として子供をもうけることが一番素晴らしいという価値観は残っています。


 現実の世界で女性が社会進出を果たそうとするにあたり、一番大きな壁が妊娠出産であることは論をまたないでしょう。これらの作者達が架空世界を創設するにあたり、まず社会的男女平等を考えそこに至るためのシステムを考えたのか、人為的出産の概念を追求した挙げ句男女平等に行き着いたのかは不明ですが、ともあれ実に論理的に家庭外労働上の男女平等が達成されていると感心しました。
 どちらも女性の体で妊娠出産を行わないので、自動的にその後の育児も男女が平等に負担するもの、あるいは「親」が養育を担当するものという無言の合意が出来ています。よって二親のうちどちらが家庭内労働(家事育児)に重点をおき、もう片方が家庭外労働に重点をおくかは自由ですし(十二国記の世界)、アーヴ世界では、長い寿命の中で一時期を育児に専念して過ごすことは、誰にとっても重要なことであるという認識が出来ています。

 ここまで来ると男女の性区別(セックス)もいらないんじゃないかという気がしてきますが、そのあたりは「前時代(我々にとっては現代)」の概念が、というか習慣が、まだ残っているようです。
 ちなみに遥か未来で機械が発達+遺伝子改造しまくりなアーヴ社会はともかく、十二国記世界では「(筋力の差があるので)武官は男の方が多い」という記述があったりします。このあたりは完全に男女平等が達成されているとは言えないかもしれません。完全な家庭外労働上の男女平等を達成するにあたり、人工子宮の次に必要な物は遺伝子改造である模様です。・・・これは余談で冗談ですが。


 さて、ここまで長い前置きを経て、話はようやく「彩雲国物語」へと到達します。
 このお話は「十二国記」と同じく中華風ファンタジー世界を舞台にしていますが、普通に女性が妊娠出産を担当します。それどころか、物語の主人公は官吏になって人々のために働きたいと願う女の子なのですが、物語開始時点で国は女性の官吏登用を認めていません。上記に比べると、(家庭外労働の一部分において)とっても男女不平等な世界です。
 そんな世界で、それでも官吏になりたいと願う女の子が、多くの幸運と自らの努力によって国初の女性官吏となって出世していこうとする・・・のがこの物語の主軸です。

 中華風ファンタジー世界、宮廷物、「統治」を物語の重要なテーマにしていることなど、他にも「十二国記」からの影響を強く感じさせる作品です。・・・「彩雲国」の方は少女漫画的なラブコメや逆ハーレム要素も強く、ずっと軟派なんですけれども(それが悪いとは限りません)。

 そのような類似性を持ちつつもこの作品(彩雲国物語)が、一つの小説として独自性と個性を獲得しているのは、上記のような男女不平等設定にあると私は思っているのです。

 ライトノベル(ジュブナイル小説)は中高生の読者に向けて書かれています。それだけに一般小説よりもある面においてずっと本音がむき出しになっている部分があるように感じられます。(この「本音」を「願望」と言い換えてもいいのですが、ちょっとそれは品がない気もします)。
 まあ実際のところ、中高生ではまだあまり実感を持って感じられないかもしれませんが、もう少し上の年齢になったとき、就職にあたって「男女の壁」にぶち当たりそれを不服に感じる女の子は少なくないでしょう。「彩雲国物語」はそういう身近なテーマを、深刻になりすぎることなく、しかし本音は覗かせながら、現実にはなかなかそうはいかない夢を見せつつ、あでやかに展開していくのです。
 そのあたりの絶妙なバランス感覚と垣間見える本音に、私は惹き付けられるのです。


 ライトノベルは男女平等の夢を見るか?
 社会システムを作り替えることで「夢を現実に」展開してみせたのが十二国記、「夢を見る」ということに真っ向から挑戦してみたのが彩雲国物語という見方もできるかと思います。

 ただ最後に確認しておきたいのは、これらの作品において男女平等(あるいは不平等)というファクターは物語のほんの一部にすぎないということです。
 「十二国記」は突然異世界に放り込まれた少女の葛藤や自分の内面との対決そして成長、また出会いや友情の物語であり、王であるとはどういうことかを問いかけ、どこかいびつで不自然さを感じさせる世界のシステムを問うていく壮大なファンタジーです。
 「彩雲国物語」は読みやすさを基調に個性的で魅力的なキャラクターを次々と配置し、巧妙に張り巡らされた伏線によって最後にはカタルシスを得るというタイプの、何度読み返しても楽しい娯楽小説です。
 「星界の紋章」においてはアーヴという人類から枝分かれした人為種族によって、人類の理想(長寿や不老や美貌、理性、そしてパクス(平和))はどこまで達成されるのかという魅惑的テーマをちらつかせつつ、ボーイミーツガールものでもあり、やはり個性的なキャラクターが次々登場する戦記ものでもあります。

 どの本も楽しく魅力的で、そこにジェンダー論など持ち込むことはむしろ無粋かとも思ったのですが・・・。まあ、一つくらいは、たまにはいいだろうということで。お許し下さい。
 男女平等は部分概念だと思います。完全な男女平等は概念としてすら存在し得ません。それがやりたかったら、文中の冗談ではないですが、最終的には男であること女であることを全ての人が捨てるしかないと思います。
 それでも我々は平等という概念に憧れます。それは男女間に限りません。私はこの憧れこそが、何よりも尊い理想だと思うのです。結果ではなくそこに至る過程こそが、永遠に辿り着けない道こそが、決して諦めてはいけない、また捨ててはいけない崇高なる「夢」なのではないでしょうか。

彩雲国物語―はじまりの風は紅く

彩雲国物語―はじまりの風は紅く

  • 作者: 雪乃 紗衣
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2003/10
  • メディア: 文庫
 

月の影 影の海〈上〉 十二国記 講談社X文庫―ホワイトハート

月の影 影の海〈上〉 十二国記 講談社X文庫―ホワイトハート

  • 作者: 小野 不由美
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1992/06
  • メディア: 文庫


星界の紋章〈1〉帝国の王女

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  • 作者: 森岡 浩之
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1996/04
  • メディア: 文庫

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