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「スラムオンライン」:ゲームと青春とバーチャルとリアルを [小説]

 それは今から振り返ってみれば本当に短い間の事、しかし当人達にとってはやり尽くし極め尽くし飽きてしまうまでの本当に長い間。バーチャファイターというゲームがありました。
 私はいわゆるファミコン世代で、物心着く頃にはファミコンがあり、小学校でスーパーファミコンの洗礼を受け、中高生の時期にプレステとサターンどちらを買うかを悩み、さらに64や次世代機へと続いてく渦中をマトモに浴びています。バーチャファイターのブームもその歴史の中の一つ。私自身はこのゲームにはほとんど触れませんでしたが、当時はまだゲーム雑誌を購読していた頃。紙面上だけでもその凄い盛り上がりは実感していました。当然身の回りでもはまっている人間がいくらでもいました。

 その頃、ブームが少し収まったくらいの時期に「東京ヘッド」というノンフィクション本が出版されました。私にとって真にバーチャファイターというゲームのことが忘れられなくなったのは、この本によるところが大きいです。
 内容は新宿ジャッキーや池袋サラ、ブンブン丸など全国区で有名だった名プレイヤーたちが、当時の熱狂を振り返るというもの。「これは現代の戦国絵巻か」というほどにその内容は熱く、競い合いであり立身出世であり、けれど一方では俗世のため(金)ではなくただ純粋に名誉と何よりも強さを求めてバーチャの戦いに身を投じたという純粋さが、奇妙なまでに現代の夢物語を体現していました。
 もちろんその一方では、彼らはゲーム雑誌の編集者であり、また有名プレイヤーとなることで副次的な収入も得ていたりしたのですが。ただ最初からそれが目的で身を投じた人は一人もおらず、結果としてなんとか食べていける道を得られたというあたりが、プロスポーツ選手にも似ており、ある種のベンチャーでもあり、やっぱり現代の一夜の夢物語であったような気がします。


 さてそれから約10年。ゲームはさらに発展し、今の熱狂といえばネットゲームでしょうか。・・・病的なものも含めて。
 そんなバーチャファイター+オンラインゲームな世界を舞台に、ゲームジャンキーである一人の大学生の恋愛と戦いの青春を描いたのがこの物語「スラムオンライン」です。

 というとどうにもクサイのですが、健康的な爽やか青春というよりは、踏み外し一歩手前の精神状態半分あっちの世界に旅立ちかけているジャンキーが、バーチャルな世界に傾倒するあまり現実までリアル感なく見てしまうようになりつつ(日常の雑音をSE(効果音)扱いしているあたりなど)、自分を現実世界につなぎ止めようとしてくれる淡い恋の一方で、"男の子"なら消しようもない戦いへの熱狂とのバランスをどう取っていくのかというグラグラ。いやむしろバランスを取ろうなんて考えが間違っているのだ、という危うさっぷりは青春という言葉で表すのが相応しいように思えます。

 私は当時(東京ヘッド)のことを思い出してとても懐かしかったです。一方で現在でもオンラインゲーム(ネットゲーム)中毒になっていく人々もたくさん知っていますから、そちらとも自然につながっていることに驚嘆したりもしました。
 作中で主人公が自分のことを、指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング)の西の果てに憧れてやまないエルフたちと重ね、しかしそれでもフロドのように旅立てない自分を自嘲するあたりも妙な現実とのリンクというか、リアル感がありました。これはいわゆる時事ネタであり、現代(現在)じゃないと成立しないというか実感をもって受け入れられないエピソードじゃないのかとも思うのですが、そんな刹那っぽさまで含めて、あまりに上手くこの物語は「現代の青春」を切り取っていたので。

 また一方で、リアルとバーチャルの端境目、バーチャルの世界で価値を求める事に意味はあるのかという問いかけも含め、考えさせられるところもありました。・・・普通にネットをやっていても、そこでヒット数を稼ぐことにどれだけ意味はあるのかとか、時間を費やす価値はあるのかとか、これはわりと現代において普遍的な問いであるような気がします。いわば我々は、今まさに初めてバーチャルの洗礼を受けている世代の人類とも言えるので。


 青春物語としてさらっと読むことも出来るし、深く考えてみることも出来る、またある種の人々にとってはとても懐かしい物語でもあるという良書でした。
 作中では最後まで出てこなかったのですが、私は作者は絶対に「東京ヘッド」も参考文献として読んでいると思っていて、なので興味を持った方には是非こちらの方も手に取ってみていただきたいです。とあるキャラクターが作中で目指しているものが何なのかも、現実の(実際の)バーチャファイターブームを知っているとストンと腑に落ちると思うので。また本の中での描かれ方も、あきらかにオマージュっぽかったですし。

 ・・・ジャッキーというのはバーチャファイターのキャラクターの名前で、新宿のゲームセンターを根城としてジャッキーというキャラクターを自キャラとして使っていたので、彼は当時「新宿ジャッキー」と呼ばれたのです。それも最初は「新宿に強いジャッキー使いがいる」という都市伝説のような形で名前が先歩きして作られ、やがて一人のプレイヤーが(多分噂の中のすべてが彼のことを指していたわけではないのですが)「俺が新宿ジャッキーだ」と名乗りをあげることで、伝説は始まった。そういう背景も知っていると、この物語はより楽しめると思います。
 もちろん知らなくても全然楽しいのですけれども。

 それにしてもあれから10年。ついでに作者は私のちょうど10歳年上。同年代かと思っていましたがそうでもなく。ゲームのブームなどほんの一時期に思えますが、もちろんあの場に集った人の中でも10年くらいの年代幅は当然あったはずで。
 全て読み終わった後で作者の年齢を知り、ゲーム世代という言葉をあまり狭く捉えるのも危険だなと思ったりもしました。

スラムオンライン

スラムオンライン

  • 作者: 桜坂 洋
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2005/06/09
  • メディア: 文庫

東京ヘッド

東京ヘッド

  • 作者: 大塚 ギチ
  • 出版社/メーカー: 美術出版社
  • 発売日: 2000/04
  • メディア: 単行本

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