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「大奥」:私は寂しい [漫画]

どんなに多くの異性に「好きだ」と言ってもらえても、自分が好きな人に振り向いてもらえなければ、それは無意味なのです。
もちろん魅力的な異性は好きです。見ているだけでも楽しい。周りに沢山いるならば、それに越したことはないと思います。
けれどやはり結ばれる相手は、自分が好きな人でなくてはならないのです。

……希に、あるいは希でもなく、多く好かれたい、多く恋われたいと思う人が居ます。私は彼らを見て、「何を探しているんだろう?」と思います。
それは水を飲んでも飲んでも渇きが癒えないのにも似て、とても苦しいことに見えるのです。いえきっとそれは大きなお世話で、花から花へと飛んでいくのも、楽しさはあるのでしょうけれども。

寂しいのはきっと誰もが同じ。それを埋めてくれる「誰か」を求めているのも、きっと誰もが同じ。

よしながふみの漫画「大奥」は、その名のとおり大奥を舞台にした物語です。ただし、男女が完全に逆転しているというところに特徴があります。
つまり将軍は女性であり、大奥にはその将軍の寵を競う大勢の男性がいるという設定なのです。出てくる将軍達は、家光に始まる徳川初期の実在の(と言っていいのか)将軍達であり、何故そのような世になったのかも、きちんと設定され、説明されています。

歴史上、一人の男性が多くの女性を囲うハーレムを持つことは珍しくありません。ただし逆はあまり聞いたことがありません。「恋多き女性」という形がせいぜいです。
社会は成熟すると大抵男系(男子が家を継ぐ)となること、男性はいくらでも自由にセックスできますが、女性は妊娠してしまうと1年近くの時間を取られることなどが、その原因でしょう。

それにしても、男女を逆転させてみようという発想は面白いです。そしておそらく最初はただその1アイデアから始まったであろう物語が、「何故そうなったのか」「そうなるとどうなるのか」を語るために肉付けされていく過程で、おそらく筆者も想像もしなかったような深いドラマを生み出していくことが素晴らしいです。

そして結局行き着くところは、将軍の孤独です。大勢の美男子に囲まれていても、いえ、囲まれているからこそ孤独が身に染みる。
さらに将軍が女性であることから、子供を得るということが男性の将軍以上に重いこととなり、世継ぎを作るために自らの腹を差し出す将軍の苦しみや惑い、悲しみが身に迫ります。
そうして得た子すら、容易く失ってしまう時代なのです(時代的に乳幼児死亡率が高いため)。男将軍であれば、母の悲しみまで負うことなく、また作れば……ということになりますが、女将軍は悲しみを背負ったまま、それでも世継ぎを作らねばと新しい男性を閨に迎え入れなければならない。

寂しい、とても寂しい物語です。

私にも好きな人がいますが、残念ながら彼は別の女性が好きです。
もし、私が女将軍で、その人を自分の大奥に迎え入れられたとしても、やっぱり振り向いてはもらえないのでしょう。そんな人だからこそ、好きなんですけどね。
恋は美しい。思い通りにならないから、最高権力を持ってしても得られないから、価値があり、素敵なのです。

誰もが寂しいけれど、寂しさと寂しさが出会ったとき、希に起こる奇跡。それを求めて今日も私たちは恋をします。

権力というものをなまじ得てしまったがために、「私」は寂しくても、相手は「私」ではなく「権力」に恋しているから寂しくない。
……それが「大奥」の悲しみです。


大奥 (第1巻) (JETS COMICS (4301))

大奥 (第1巻) (JETS COMICS (4301))

  • 作者: よしなが ふみ
  • 出版社/メーカー: 白泉社
  • 発売日: 2005/09/29
  • メディア: コミック



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